酒米のこと

ご存知の方も多いと思いますが
酒米について少し触れたいと思います。

酒米(正確には酒造好適米)というのは
その名前の通り
酒造りに適した、もしくは酒造りのためのお米です。
もっと言うならば
そのために開発され、品種改良を重ね
酒造り専用に栽培されているお米というわけです。

パッと見た目は普段食べているお米と
変わらないように思いますが
食用米と酒米はその成分に大きな違いがあるのです。
また、玄米の状態で見比べると
その違いも良く分かります。

食用米の大事なところは
「食べたときの食感の良さと旨みや栄養分が豊富なこと」
だと思います。
でんぷんの他に、たんぱく質・脂質・ビタミンなどの割合が
炊いて食べたご飯がいかにおいしくなるか
一般的にはそこを重点に開発されていると思います。

酒米の大事なところは
「出来た酒の質の高さと仕込みに適した性質」
簡単に言うとそんなところでしょうか。
食用米で大事なたんぱく質や脂質は
酒の「雑味」の元になってしまうので
酒米の場合は、でんぷんはより多く
たんぱく質や脂質などは出来るだけ少なくなるように
開発されているのです。

見た目の分かりやすい特徴としては
食用米に比べて粒が大きいことと
でんぷん質が米の中心に大きく見えることです。
(このでんぷんのかたまりを「心白」と言います)

業界の方やお酒に詳しい方は
なんだい、そんなこと知ってるさ
もっと詳しい説明が抜けてるよ
と思われるでしょうが・・・・・・(笑)
この辺についてはまた改めて書いていこうと思います。

というわけで
前回の続きですが

酒米作りの準備も迫ってきたところで
「品種」はどうしようかと言う事になりました。

酒米にも品種が多くありまして
(全国見渡してもざっと20~30種類!)
長野県内でも数種類が開発されたり
作付けされているわけですが
結果的に選んだのが「美山錦」です。
幾つか理由があるわけでして

長野県が開発した品種のため作付面積が多いこと
(作付けが多いと言うことは仕込みにも適しており
酒の品質も安定していること、また栽培も比較的しやすい)
美寿々酒造でも美山錦の使用割合が多く
米の特性を熟知していること   などです。

3月も半ばにに近づくと
種籾の手配をしなければなりませんが
ちょうど知り合いが酒米の産地近隣に在住だったこともあり
相談したところ手配をしてくれました。

田植えまでの段取りは例年通りです。
3月の終わりから
水に浸し
芽を出し
苗箱に土をひいて種籾を撒き
小さいビニールハウスで育てます。

ハウスに並べるのが4月中旬で
田植えまでの約4週間
急に寒さが戻ったり・初夏のような暑さになったり
ちゃんと芽が出て生育しているかどうか
毎日気がかりで世話をするのも一苦労で
酒米に限らず毎年気を遣います。

田圃も準備が始まります。
トラクターで土を起こし
水を張って代かきをし
畦の草刈をし

いつもの年と同じ作業も「念入り」に「丁寧」に
当たり前の様に淡々とこなしていた作業が
やけに楽しく感じられるのも何だか不思議な感覚で
今迄に無いやりがいを日々の作業に感じていました。

ともあれ
苗は順調に育ち
いよいよ5月中旬
田植えも無事に終え
一面に広がる美山錦が植えられた田圃を見渡すと
いつもの田植え後とは一味違った
感慨を覚えたことを今でも記憶しています。
見た目には毎年見ている風景と
何にも変わらないのですが
この田圃で収穫した米で酒を造る
という目標に確実に一歩近づいたという
実感があったのは間違いありませんでした。

田植えの後も
気温が急に下がる日があったりと
天候を気にしつつ心配は絶えませんが

それ以上の満足感と期待感
そして心地よい疲労感に包まれて
その日を終えたことは今でも忘れません。

翌日から
田圃を見に行くのが楽しみな日々が始まりました。