早稲と晩稲

田植えも終わり刈り取りまで
酒米作りは新しい発見が色々あります。

農作物には早生(わせ)と晩生(おくて)と言って
生育の早いものと通常もしくはゆっくりと生育するものがあります。
お米の場合は早稲・晩稲(読み方は同じです)と書きますが
美山錦と言う品種はいわゆる早稲品種のため
同じ時期に植えたコシヒカリとは生育の早さが違います。

平成10年
初めて美山錦を植えた後
足繁く田圃を見に行くわけですが
成長具合が今までと違ってかなり分かりやすくなりました。

色合いのイメージとしては
成長が進むにつれて緑がだんだんと濃くなり
収穫期が近づくにしたがって黄みを帯びて行きます。
美山錦の田圃はそこだけ緑色が濃くなってい行くのが
手に取るように分かります。
伸びる勢いもコシヒカリとは明らかに違います。
そんな様子から
しっかり根付いて順調に育っていることに
何はともあれ安堵しつつ
田圃を眺めたり
畦草を刈ったりが楽しく仕方ない毎日でした。

早稲ということは
当然「穂」が出るのも早いわけで
例年の感覚(コシヒカリの場合)だと家の田圃で8月10日前後が
出穂の時期になります。
が・・・・・・・

ある日      よくよく見てみると
あら?
穂?
花?
まだ7月下旬なのに穂が出て小さく白い花がついています。
早っ!

いつも追肥を2回行います。
最初は穂が出る前に1回
穂が出揃って実のつき具合が落ち着いたころでもう1回
どちらも稲の伸び具合や生育にムラが出ないように
養分を与えるというやり方です。

1回目は穂が出るちょっと前の時期がちょうど良いので
追肥や草取りに限らず
穂が出ている最中は田圃にはなるべく入らないようにしています。
花がついたり実が入り始めると
ちょっとデリケート(?)な状態なので
稲を掻き分けるように動き回るのは良くないと
親父から教わっていましたから
毎年その時期は注意していたつもりです。

慌てました
やばいじゃん!
すぐに田圃に入る支度をして
急いで作業したのは言うまでもありません・・。

早稲という認識はあっても
どのくらい早いのか
作業の適期はいつごろなのか
美山錦という酒米に対する経験やノウハウが無く
必要な情報が身近なところから入らないこともありましたが
自分の勉強不足にちょっと反省をしました。

田圃が広くある中でそこだけ穂が出ていると
空から強力な敵がやってくるわけです。
すずめの群れが。
チュンチュンなんて可愛いもんじゃない
1羽や2羽なんてやさしいもんじゃない
群がって飛んでつつきに来るんです。
それまでは鳥避け(案山子とか紐を張ったりとか)
なんてほとんど必要なかったんですが
ほっとくわけにいきません。
穂を傷めないように
田圃一面に鳥避けの紐を張り巡らしてしのぎましたが
これも本来は穂が出る前にしなくてはならない作業なわけで
最初の年はどうも後手後手にまわる感じでした。

その後は大きな問題も無く
順調に収穫期に近づきましたが
8月下旬からの台風や長雨で
なかなか田圃に入れる状態にならず
やきもきした日が続きました。
晴れ間も見え始め田圃の土も乾いてきたので
いよいよ刈り取りとなりますが
天気の具合もあり適期より一週間ほど遅い
作業になってしましました。

数年前からは
専業でやっている方にお願いして刈り取りを行っていますので
大型コンバインでハイスピード作業
2時間もあれば刈り取りも終わります。
当時は家のコンバインもまだ使えましたので
自分で刈り取りをしていましたが
とはいえかなりあちこち傷んでいるため
作業途中でのトラブルや故障を避けるため
ゆっくりと作業を行いました。

それと

なんとなく

黄金色に広がる美山錦の稲穂を見ていると
刈り取ってしまうのがなんだか惜しいような気がしました。
名残惜しいような・かみ締めるような
そんな気分もあって尚更作業がゆっくりだった気もします。

が     余計な感傷のせいかどうか

午前中から始めて
暗くなるころまで
途中から雨が降ってきたことも災いし
更に作業に手間取り
ほぼ1日がかりでやっと刈り取りも終わり
乾燥機に搬入するまでずいぶん時間がかかってしまいました。

そんなわけでどうにか刈り取りも無事(?)済んで
田植えの時と同じように
心地よい疲労感で一日終わったわけですが

それに加えて

毎年当たり前にこなしていた田圃の仕事に対する意識が
酒米を作る事で前向きにやりがいのある仕事として
自分の中で大きく位置づけが変わりました。
もちろん  毎年毎年良い米を作ろう
そういう意識でいましたが
その先にまだ続きがあるということは
やりがいがまた一段と大きくなったと言う感じでした。

米の収穫とともにそんな大きな収穫もあり
また1歩自分の造りたい酒に近づいたという充足感と
来年はもっと上手くやろうと気持ちで
未だ酒も出来ていないのに
やけに手応えを掴んだ気分でした。

刈り取りの後は乾燥・玄米調整・等級検査等あり
蔵に届くまではまだかかりますが
作業が一区切りつく度に
楽しみが益々大きくなって行きます。